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スコア+パート譜セット
【編成】
弦楽オーケストラ(1st Violin, 2nd Violin, Viola, Violoncello, Double Bass)
【難易度】3.中級者向き
【作品名】長谷寺(紫陽花)HASEdera(Hydrangea)
【作曲】
小室昌広 (Masahiro Komuro)
【演奏時間】約3分
この作品は尚美ミュージックカレッジ専門学校における弦楽合奏授業の教材として制作されました。
コントラバスが2パートに分かれているのは、当時の授業の参加人数と編成を踏まえたものであり、教育的配慮に基づく設計です。
この作品は、3連符と2連符の並置で起こる、アンサンブルの噛みあわせの難しさに対処することを第一の目的として作成を始めました。この曲を含む弦楽合奏のための作品群のコンセプトとして四季の情景を描くことを決めていたので、そこからのの検討を進めた結果、ドラマ性のある楽曲となりました。
楽曲のテーマを「梅雨の時候の紫陽花」として、紫陽花寺として有名な鎌倉の長谷寺を題名としました。長谷寺には巨大な十一面観音菩薩像があり、これにまつわるストーリーがあります。これらの要素をおおらかに内包するような楽曲となるように構築してみました。
曲は13の部分から成ります。序奏と後奏を除く11の部分には観音像の頭に並ぶ11の面を対置し、音楽の表情を面の意味するところに近いものとしました。全曲の流れは観音像がこの寺に立つまでの話に即したものにしました。
全曲を弱音器をつけたまま演奏するように指定しています。紫陽花が梅雨空のなかで咲く曖昧模糊とした雰囲気を演出します。弱音器が「音を弱める」ためでなく「音色を変える」ためのものであることも、楽曲中で全てのダイナミックを演奏することで見えてくることでしょう。
全曲を通して、「序」と名付けた4小節の序奏で現れる4音からなる音型とその変形がテーマとモチーフとして使われます。ひとつの主題を変形させながら重ねていく手法は「カノン canon」と呼ばれますが、この曲ではそれに近い手法を狙いました。これは観音を「kannon」と英語で書いてある案内書から発想しました。
「序」でヴァイオリンが奏でる音形はシ•ラ•レ♯•ミの 4音で、これをドイツ音名にして異名同音で読むと「H•A•S•E」となり、「ハセ」のローマ字読みとなります。この音形の前2音と後2音を入れ替えた形、その反行形などがこの後加わり、楽曲の構成要素となります。
また、ヴァイオリンの音形はシトシトと降り続く雨模様を表すために3連符で優しく、拍をずらして重ねて奏でられます。最初に休符があるのは、音の入りを明確にせずに曖昧模糊とした表情を目指すためと、このモチーフで弾く音を11音にしようとしたためです。11音のモチーフは両方のヴァイオリンでこのあと11回続きます。セカンドヴァイオリンは途中で11音から12音に変わりますが、同じ音のサイクルが11回続きます。
以降の主部には 4小節ごとに練習番号と、観音像の頭に並ぶ11面の呼び名を当てています。正面に「柔和相」が3面、左側に「憤怒相」が3面、右に「白牙上出相」が3面、背面に「大笑相」、頭頂に「仏相」となっています。
練習番号1「柔和相 壱」、柔和相は穏やかな表情の面です。序奏からの雨のモチーフが続くなかヴィオラで奏されるメロディーは紫陽花の穏やかな美しさを表してみました。このメロディーは基本音形から導いたもので終わりには雨のモチーフに溶け込んでいきます。練習番号2「柔和相 弐」ではメロディーがファーストヴァイオリンに渡り、他のパートは3連符を含むリズムを奏して、わずかに雨足が強くなってきます。
練習番号3「柔和相 参」は経過句で、各楽器に3連符の中に2連符の裏拍を入れ込む演奏を練習させる命題を含んでいます。
練習番号 4「憤怒相 壱」、憤怒相は怒りの表情の面です。昔、近江国に大きな楠の倒木があり、それが洪水で大津に流れ着き、人々に祟りを及ぼしました。ここではその苦悩をヴァイオリンのメロディーと伴奏の動きで表情しています。練習番号5「憤怒相 弐」ではチェロが苦悩を歌い、ファーストヴァイオリンが嘆きます。
練習番号6「憤怒相 参」では、僧侶徳道上人が楠の木を譲り受け、2体の観音様を作り、民衆を救おうとする様を、像を掘り進めるように半音階上行で動く3連符と、ヴァイオリンが奏でる基本音形の上昇で表しました。ここでコントラバス2番が奏するリズムは、チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」においてコントラバスパートに出てくるものです。
練習番号7「白牙上出相 壱」では、2体の観音像が出来たことを、2つのコントラバスで奏でる音域の広いメロディーで表しました。このメロディーも基本音形の変形を繋いで作られています。
二つの観音像のうちひとつは奈良の長谷寺に祀り、もう一体は広く救いがあるよう海に流されました。練習番号8「白牙上出相 弐」では海に浮かぶ一体の観音像を描いています。チェロが海原で揺れる波を表し、ひとつのコントラバスが観音像のメロディーを奏でます。もうひとつのコントラバスは休んでいますが、可能であれば人工フラジオレットを使ったカモメの鳴き声を奏する指示をしてあります。
海に流された観音像は15年後に横須賀に流れ着き、鎌倉の長谷寺へと運ばれます。練習番号9「白牙上出相 参」では、像が長谷寺の高台へと運ばれる様子を表しています。大小の3連符と2連符と3拍単位のフレーズが並置されています。直前の部分からあるヴィオラの対2拍3連符は像を見た民衆の祈りのイメージです。
練習番号10「大笑相」では、長谷寺の本殿に立つ観音像の神々しい様を表しました。コントラバス2番は観音像のメロディーを反行形で1.5拍を一拍として引き伸ばして演奏します。高音弦は2連符と3連符が混ざったリズムを互いにズレるように配置して、煌びやかな情景を演出しました。またこのリズムは、「大笑相」が笑いで災いなどを吹き飛ばすという意味があるので、笑い声のイメージも加味されています。
練習番号11「仏相」、悟りを開いた表情の面が観音像の頭頂にあります。ここでは、苦悩から解放されることを、雨上がりとも掛け合わせて、紫陽花のメロディーを再現させています。以前の部分のカオス的な状況から徐々に穏やかになり、雨のモチーフの3連符も切れ切れになっていきます。
練習番号12「摂取化益(せっしゅけやく)」、絶対の幸福へと導く働きを仏教用語で摂取化益と言います。雨が上がっていき、長谷寺の観音堂がある高台からは、像が渡ってきた海を見ることが出来ます。最後の和音はこの曲の調性イ長調の主和音の上に、練習番号8で現れた海のイメージを持つ調性である変ホ長調の主和音が重なります(「ペトルーシュカ和音」となります)。またこの部分の低音弦楽器の和声進行は一種の「アーメン終止」とも見ることが出来ます。
全曲にわたって、音楽的指示のほとんどをドイツ語で示しています。全体の楽曲の響きがブルックナーやマーラーの感じに近いように思えてきたのが、その理由です。授業での使用に際し、ドイツ語の楽語表記に触れ、学ぶキッカケになることも考慮しました。
この作品は、弦楽合奏の教材として連作的に作成されている楽曲群のひとつであり、各作品に四季のイメージを付すというコンセプトのもとに構想されました。
本作は「春から夏へ」の情景を描いた一曲として仕上げられています。
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